サウナと野球と時々カメラ

意識の低い政治学徒だった人の日記。週末サウナー。

塩谷歩波(2019)『銭湯図解』中央公論新社

何を求めて銭湯へ?

 前から読もう読もうと思っていた『銭湯図解』をようやく読んだ。

銭湯図解

銭湯図解

 サウナにハマった影響もあり、ひそかに近所の銭湯にもちょくちょく通っていた。だが、それは「安くサウナに入れるから」であって*1、「お風呂目当てで銭湯に行く」というのはほとんどなかった。行ってみたいと思う銭湯はいくつかあっても、あくまでも「サウナがいい」という評判を聞いたからこそ行ってみたいのであって、極端なことを言えば「サウナと水風呂のために行きたい」という感じだった。つまるところ、筆者は「ととのい」を求めているのであって、露天の外気浴スペースや休憩用の椅子も充実してはいないであろう銭湯を積極的求めていくことは、ほとんどなかった*2

 ただ、本書を読んで、今までもったいないことをしていたな、という思いに駆られた。サウナがなくても、銭湯単体で十分魅力があることを、本書は教えてくれるのである。特に、「図解」と銘打ってあるように、銭湯の内部を著者自らが描いた絵で見せてくれるのが本書の特色だ。建築学科出身という強みを生かし、アイソメトリック*3という手法を使って、銭湯の内部が立体的に描かれている。

見て楽しむ銭湯

 銭湯といえば、青空を背景にそびえたつ富士山のイメージを持っている人が多いのではないだろうか。筆者もそうだ。だが、本書を読むと、必ずしもそうではないことがわかる*4

 ピンクなどポップな色合いで富士山が描かれている鶯谷・萩の湯や、富士山の上からKEEP LUCK YOUという文字を大きく入れた川口・喜楽湯、横山大観の絵画をモチーフにした黄色い富士山がある町田・大蔵湯など、富士山だけでも豊かなバリエーションがある。銭湯の富士山は青色というのが、いかに先入観に満ちているかがよく分かる。

 また、武蔵境の境南浴場には大きな鳥のタイル画があったり、徳島・昭和湯には「津田の盆踊り」を踊るたぬきが描かれていたり、絵を見にいくために行ってみたい銭湯が出てくるとは思いもしなかった。

 絵画だけではない。蒲田・桜湯のように、春には桜を楽しめる銭湯や、ゴージャスな装飾で彩られた船橋・クアパレスなどもピックアップされていて、銭湯が視覚的に楽しめる場所だということを存分に伝えてくれる本に仕上がっている。

入って楽しむ銭湯

 本書を読んで気づいた点の1つが、銭湯はやはりお風呂が充実しているということだ。サウナ巡りをしていると、スーパー銭湯からサウナ施設まで色々足を運ぶのだが、特にサウナ施設の場合はサウナと水風呂がメインになっており、浴槽自体は何種類もあるわけではない*5。それに対して、本書で取り上げられている銭湯は、色々な趣向を凝らした面白い浴槽が楽しめるようになっている。

 比較的よくあるのは、東京近辺ではよく見られる黒湯の天然温泉だろう。その他にも、漢方や入浴剤などが溶け込んだ薬湯などもある。読んでて面白いのは、薬湯が時期によって変わったりすることだ。1か月の予定などが張り出されていたりするそうで、何度も入りにいく楽しみがある。

 特に楽しそうなのは、スカイツリーのお膝元、墨田区の薬師湯だ。薬師湯の「タワー風呂」は、時間によって濾過器に入れる入浴剤を変えることで、スカイツリーのライティングに合わせてお湯の色が変わる仕掛けになっているのだとか。その他にも、ココナッツ・唐辛子・生姜・パクチーなどに入浴剤を混ぜた「トムヤムクン湯」という想像すらつかない湯船を作り上げたりしているそうで、怖いもの見たさで入ってみたくなる*6

入浴後に楽しむ銭湯

 意外だったのは、入浴後も楽しめる銭湯が色々あることである。銭湯というのはお風呂に入りにいくところであって、お風呂から上がったらそのまま帰るものだとばかり思っていたが、実は必ずしもそうではないらしい。銭湯神ことヨッピーが鶯谷・萩の湯で入浴後に酒とつまみで一杯やっている記事を読んだことがあるが、これは萩の湯が超ハイスペック銭湯であるがゆえの例外だと思っていた(もちろん本書でも取り上げられている)。

 いくつかあったのが、食堂が併設されていてご飯を食べられる銭湯だ。ドラマ『サ道』にも出てきた杉並・ゆ家和ごころ吉の湯では生ビールが飲めておつまみまでついてくること、桜館や蒲田温泉には食堂だけでなくカラオケが置いてあって自由に歌えること、などお風呂上がりに胃袋までガッチリ掴んでくるタイプの銭湯があって、これはもはやスーパー銭湯なのでは(とは言いつつ料金が普通の銭湯価格だったりするので驚き)、と思わざるを得なかった。

 他にも、ギャラリーが併設されている高円寺・小杉湯、縁側で高瀬川の風に吹かれながら休める京都・サウナの梅湯、畳敷きの待合室でクラフトビールが飲めちゃう大崎・金春湯など、もはやお風呂上がりも楽しめるエンタメ施設として進化した銭湯がたくさんあることを知ってしまったのである。

お出かけついでに銭湯に行こう

 いやはや、なんというか本書を読んで銭湯に対する見識のなさが色々わかってしまう一冊だった。ここまで銭湯で楽しめそうだということがわかると、銭湯を目的にお出かけすることもできてしまう。本書で取り上げられている銭湯はシャンプーやボディーソープの類も備え付けてくれているところも多いようなので*7、近くに行く用事のついでにフラッと立ち寄れそうなのがありがたい。せっかくの秋なので、イベントに対するアンテナも高くして、出かけついでに銭湯でひとっ風呂浴びてみるのもいいかもしれない。でも最近一気に冷えてきたので、帰り道の湯冷めには気をつけなければ。

 銭湯はいいぞ〜〜〜

*1:マイホーム銭湯の場合、入浴料金+100円でサウナに入れるので、8〜900円払うスーパー銭湯より安いのである。

*2:職場の先輩と、仕事帰りに銭湯で温冷交互浴をしたことはあった。

*3:「立体を斜めから見た図を表示する方法のひとつで、等角投影図のこと。本来は、三方の軸がそれぞれ等しい角度(120度間隔)で見えるように立体を投影するものですが、「銭湯図解」ではそれぞれの銭湯によって角度を変えています」(p.14)。

*4:もちろん、著者である塩谷さんのホーム銭湯、高円寺・小杉湯もそうだし、北千住・大黒湯を筆頭に、前半から富士山絵の銭湯もたくさん出てくる

*5:浴槽の3倍以上の水風呂を有する笹塚マルシンスパは極端なパターンとしても、新橋アスティルも浴槽は1つだけ、サ界の聖地ことサウナしきじも薬湯とノーマル浴槽の2つなので、スパを売りにしていないサウナは基本的に浴槽の数が少ないと思う。と書いておきながら、あるところにはあるような気もしてきた。

*6:唐辛子ような刺激物が入っていると、草加健康センターよろしくチンピリしそうでちょっとこわい。

*7:基本的に、銭湯にはシャンプーやボディーソープは備え付けられていなくて、利用者が自分で持参するものだと思う。ドライヤーも3分10円だったりするので、スーパー銭湯と同じノリで行くと困るケースが多いような気が。